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「ななん」
なにぬねのの畑から、ななんは生まれました。
ななんは初めの「な」が張り切りすぎて「なな」と続けざまに出てしまったので、それで困った挙句におしまいの合図となる「ん」を添えて、ななんは生まれてきました。
ななんはおしとやかになりたいのですが、なにしろ張り切って生まれた子ですから、なかなかそうも行きません。
ななんはいつだって前のめりです。
それでも、ななんだってたまには黙ります。
昨日の夕べから、ななんは何を言っても「ん」しか言わず、口をへの字にしたっきりです。
何があったんだい、と誰が聞いても「ん」としか応えません。
こちょばしても「ん」です。
びっくりさせても「ん」。
お腹が痛いのかと心配しましたが、ななんの返事はやっぱり「ん」です。
あくる朝、ななんは突然にこにこと「おはよう」と口を開きました。
ななんの足下には何やら見たことのない生き物がいます。
毛が生えていて、ふにゃふにゃしています。
食べるところはあまりなさそうです。
ななんに「それ、まずそうだな」と言うと、ななんは「食べない!」とにこにこしながら言いました。
ななんは言います。「これ、ななんの友だち」ななんは、その尻尾の生えた生きものを抱きかかえました。
「畑から生まれた。喋ったらななんみたいに勢いついて、へんな名前になる。だから生まれるまで黙ってた。ななん、こいつの名前、もう決めてる」
「なんて言うんだい」
「ねこ!」
こうして、ななんに友だちができました。
おしとやかにはなれませんでしたが、友だちはできました。
友だちがニャアと妙な鳴き声を上げるたびにななんは言います。
「ねこ!」
なにぬねのの畑からは、まだまだねこが生まれるようです。